膵臓癌治療 外科医の本音

膵臓癌治療 外科医の本音

癌に悩む患者さんにむけた、専門医の正直な気持ち

手術の成功 外科医の本音

ドラマでよくある

 

手術は成功しました!

 

これって、どうなんでしょうか。

 

医療現場はテレビドラマなどの題材としてよく取り上げられます。

そこでは、手術が終わって、このようなセリフをよく目にします。

わかりやすいし、かっこいいからでしょうか。

 

手術の成功、外科医にとってはとても分かりにくい言葉です。

 

私は、手術は成功ですか?と患者さんやご家族に聞かれたとき、

(手術終了時の説明で、しばしばこう聞かれることがあります)

 

成功 とか 失敗 とかいう言葉は基本的に使いません。

 

「予定通りにいきましたよ」

 

とか

 

「トラブルなく終わりましたよ」

 

という風にはよく説明します。

 

手術の成功、ってなんだとおもいますか?

 

患者さんにとっては、手術は膵癌治療の手段ですので、

成功は 病気(今回は膵癌)が”根治”することかと思います。

(手術が安全にトラブルなく終わるのは当然必要として)

 

外科医にとっても癌の根治こそが、手術の”成功”だと私は思うのですが、”根治”といえるかどうか、手術が終わった段階では実は何とも言えません。

 

”根治”って何だと思いますか?

 

癌の治療をして、その後5年、10年して、何の治療もなく、再発の所見もなく、元気にしている

 

これはある種の”根治” と言っていいのではないかと思います。

 

”根治切除” という言葉があります。

 

手術をして、癌を跡形もなく(顕微鏡レベルでも跡形もなく)、取りきることです。

(きちんとした定義も一応あります)

 

”根治切除” ができたかどうかは、手術終了時に、ある程度のめどがついていることが多いです。

 

というわけで、”根治切除”ができた、という意味で、成功という言葉を使う外科医もいると思います。

 

しかし、次のような患者さんが残念ながらおられます。

 

”根治切除”を受けることができた。手術後3か月の検査では、癌は跡形もなく消えているようで、治っています、と言われた。

6カ月後の検査では、 肝臓に影があって、再発だと告げられた。

(さらに残念なことに、こういったケースはそんなに少なくはない)

 

これって、根治でしょうか??

 

私にはよくわかりません (というか多分違うんだろうと思います。)

 

他の癌では、”根治切除” を受けられたら、高確率で再発しないものが結構あります。(例えばごく早期の胃がんでは、何らかの形で根治切除を受けられたら95%以上治るといわれています)

 

しかし、膵癌は根治切除を受けられたとしても、60%-80%の患者さんが、再発を経験しているようです。(そして、残念ながら膵癌で亡くなっている)

 

したがって、手術後に、順調に”根治切除”ができたとしても、のちの再発率を考えると、成功、という言葉は安易に使えるものではないように思っています。

 

(冷たい事実ばかり並べたてて、むやみに患者さんを不安にしてもしょうがないので、安心させてあげたいという思いで、成功、という言葉を選ばれる外科医もたくさんいると思います。この言葉の使用を否定するものではありません。)

 

膵癌に関して、根拠をもって「私が根治切除をした、といったら絶対再発しません!」なんていえる外科医は世界中に一人もいません。

そんな人がいたら、現実世界では、詐欺師です。

(ブラッ〇・ジャックでもいわないでしょうが、大〇未知子ならいうかも、、、)

 

膵癌の再発率の高さの他にも、

手術の成功、ということばを患者さんの質問に対してすぐ返せない理由があります。

 

こういう質問が来るときは、だいたいが手術直後か、次の日くらいです。

 

手術には、”術後合併症” というトラブルがあります。

(注 いわゆる医療ミスとは違います。別記事で説明します)

 

これは、手術直後に起こるよりは、むしろ数日してから明らかになるケースが多いです。

 

外科医にとって、もっとも悩みの種なのが、この術後合併症、と言っても過言ではありません。

 

膵臓の手術で、術後合併症を今まで一度も経験したことがない、あるいは絶対に何も起こさない自信がある外科医も、普通はいないと思います。

(いるとしたら、よっぽど自信家か、ほとんど手術をやったことがないか、、)

 

手術の直後、あるいは次の日くらいに、成功しましたよ!、と説明しても、後で合併症などでよからぬ状態になってしまうかもしれない、、、(そしてそれは術後翌日の段階では通常十分にはわからない)

 

そういう”恐れ”を私のような平凡な外科医は持っています。

 

一回元気になって退院してしまえば、そのあとで明らかになる合併症は、それほど多くはありません。

退院時には、おおむね手術という治療プロセスが順調に経過したことがわかるので、成功したよ、と言ってあげられるかもしれませんが、そのころは患者さんも元気になっているので、あまりそういったことが疑問になることはありません。

 

手術の成功、という言葉に対しての外科医の本音、  

患者さんにはどう聞こえるんでしょうか?

 

ご意見、ご質問をお待ちしております。