膵液ろうを知る ②なにが怖いのか
膵液ろうとは
膵臓の手術をしたあと、お腹の中に残っている膵臓から膵液という消化液が漏れ出すトラブルです。
これが起こると何が怖いのか。
膵液、というのはもともと消化液の一種です。
食べたもの(タンパク質、脂質)を分解吸収するために通常は腸の中に分泌されます。
これがお腹の中に漏れ出すとどうなるか。
人間の体は、たんぱく質や脂質でできています。したがって、簡単にいえば、自分の体がこの液のせいで分解されてしまいます。
恐ろしいですね。
しかも、(当然ではありますが)膵臓自身も他の臓器と同様、たんぱく質でできています。漏れ出した膵液は、膵臓自身も傷つけて、さらに悪化するという悪循環となり、なかなか治りません。
膵液が少しでも漏れれば全部とんでもないことになるわけではありません。
もともと膵液の中に含まれるたんぱく質や脂質の分解酵素は、不活性な形で分泌され、腸管の中で活性化される、という仕組みをもっています。
漏れ出た膵液が不活性の状態であれば、それほど影響はないと考えられています。
漏れ出た膵液が何等かのきっかけで、活性化してしまうと、周囲を傷つけだすと考えられていますが、このきっかけもよくわかっていません。(細菌などの感染がわるいのではないか、と考えられていますが、はっきりしていません)
膵液ろうで、一番重大なトラブルが、膵液が血管を溶かしてしまうことによる大出血です。
膵液によって血管に徐々に傷がついていき、ある段階で急に仮性動脈瘤、という血管のこぶのようなものが生じ、破裂して急に大出血を来します。
手術をしてから1週間以降に起こることが多く、なかなか良い治療方法が少ないため、しばしば致死的になります。(仮性動脈瘤に対する治療については、後日解説したいと思います。)
膵液ろうの治療において、一番困るのは、もれた膵液に対してうつ手立てが十分でないことです。漏れ出した膵液を無害化するような薬はなく、基本的にはもれる量を何とか少なくできるようにサポートするような形で病勢を見守るしかない、というのが現状です。
膵液ろうの病態理解、治療開発にまだまだ課題が多いことがご理解いただけましたでしょうか。
膵液ろうについて、現状ではできるだけ起こさないようにする、というアプローチがとられています。
それは当然大事なことですが、起きてしまった膵液ろうに対する治療法もよりよくなれば、膵臓の手術はぐんと安全になると思います。
そのことが、膵臓癌の患者さんの治療戦略にも大きな影響を及ぼす、と考えています。
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