膵臓癌治療 外科医の本音

膵臓癌治療 外科医の本音

癌に悩む患者さんにむけた、専門医の正直な気持ち

膵臓癌 腹腔鏡手術はいいの?

腹腔鏡手術 というのをご存知でしょうか?

お腹に小さな穴をあけて、そこから高性能カメラや、マジックハンドみたいな道具をつっこんで手術を行うものです。

 

傷の小さな手術

体にかかる負担が小さい手術

 

など、メディアでは、先端的な良い治療としてたびたび紹介されているように思います。

 

一方、膵臓癌の従来の手術は

開腹手術(お腹を大きく切ってする手術)

で行われてきました。

 

ここで、問題です。

腹腔鏡手術と開腹手術、どっちがいいの?

 

以下は個人的な見解です。

現時点では、おおむね開腹手術のほうが間違いない。

将来的には、腹腔鏡手術(またはロボット手術)がおすすめになるんではなかろうか。

 

ここからは、その理由です。

 

膵臓の手術には切り取る場所に応じて、2種類あります。

膵頭十二指腸切除(PD)と 膵体尾部切除(DP)です。

(違いは他記事参照ください)

 

どちらについても、腹腔鏡下手術は保険収載をされていますので、ある程度認められている治療です。(保険収載されたのは、特にPDはごく最近です)

 

しかし、膵癌に対する腹腔鏡下手術は

膵頭十二指腸切除術は保険適応外

膵体尾部切除術は条件付き保険適応

(2019年4月現在)

 

保険適応外、ということは、普通の治療ではないし、もしどうしても受けたければ実費か研究でどうぞ、ということです。

 

なんででしょうか。

 

実は、膵臓の他の病気に対して手術を行うのと、膵臓癌に対して手術を行うのでは、

 

手術の名前が同じであったとしても、全然違う手術

 

というのが、膵臓手術に携わる外科医の感想です。

(端的にいうと切り取る範囲が大きいのです。後日説明します)

 

膵臓癌に対する手術は、他の疾患(腫瘍)に対する手術よりも

難易度が高いとされているため、

膵癌の腹腔鏡下手術はまだ発展途上

という段階と言えると思います。

したがって、手術を受ける病院によっては、まだ十分に手術の質が確保されていない可能性があります。

 

上述の保険適応の状況も、これらのことを踏まえた学会の勧告・意見に従ったもののようです。

 

開腹手術は、これまでに十分検討が尽くされ、様々な工夫や注意点などが確立されてきた術式ですので、腹腔鏡下手術とくらべれば、施設間のばらつきも少ないし、いわゆる達人も多いです。

 

というわけで、膵癌の手術を受けるとすれば、

現時点では、おおむね開腹手術のほうが間違いない。

と、思います。

 

でも、現実には、膵臓癌で腹腔鏡下手術を受けられる患者さんもいます。

そういう人はだまされているのでしょうか?

 

必ずしも、そうとはいえません。(医者は患者さんをだましはしない、はず)

 

腹腔鏡下手術のメリットとは?

 

患者さんにきくと、最初に書いたように

 

傷が小さい という答えが多く帰ってくる印象です。

 

これは価値観の問題ですが、私は、膵臓癌の手術(というか癌手術全般)において、

 

傷の大きさってそんなに大事ですか?

 

と、思っています。

だって、命がかかっているんですよ?

それも治療がうまくいかなければほぼ100%死ぬ病気です。

(たしかに乳がんなどでは、重要なのもわかる気がしますが、、、)

 

この感想は、正直いって、結構多くの癌治療医に共通する感想だと思います。反対の人もいるでしょうが、、、

 

外科医(そして患者さん)にとっての腹腔鏡下手術の真のメリットは、全く別のところにあると思います。

 

その最大のものが  拡大視効果 であると思います。

 

なんだそれ??と思うかもしれません。

 

読んでそのまま、でっかく見えるということです。 

でっかく見える、ということはよく見える、ということです。

実は腹腔鏡下手術では

非常に高性能のカメラ を使います。

肉眼で見るよりも非常に微細な構造までよく見えます。

(開腹手術をするときも 拡大鏡 といって、手術専用の眼鏡をつかいますが、それよりもさらに拡大されてよく見えます。)

したがって、より細かく丁寧な手術ができるんです。

ロボット手術も腹腔鏡手術の延長(+アルファもたくさんある)でおなじようなメリットを持っています。

 

胃がんや、大腸がんの手術では、もはや腹腔鏡手術が当たり前になっていますが、これも傷が小さいからではなく、この拡大視効果にもとづく精緻な手術に多くの外科医が共感、賛同したからです。(残念ながら明らかな生存率向上には結び付いていませんが)

他にも気腹による出血量の減少、癒着の低減など様々な効果もあります。

 

今でも、多くの外科医、そして病院が、胃がんや大腸がんなどの手術時に、傷が小さい手術ですよ、といって患者さんに腹腔鏡手術をすすめているようですが、明らかにそこは(悪意はないけど)だましトークな気がします。(本当に行うべき手術と思っているが、それをすすめる理由は傷が小さいからではない)

 

体にかかる負担が小さい手術、という宣伝文句もあります。

 

これは、ある意味正しいように思いますが、そもそも

体にかかる負担、ってなにをさす言葉なんでしょうか?(これは長くなるので後日)

 

ともあれ、腹腔鏡下手術には、上述のような潜在的メリットがあり、

 

現在でも状況によっては

そして将来的には多分確実に

 

膵癌に対して推奨される手術になるだろうと思っています。

 

(私は腹腔鏡手術の普及は外科学にとって本当に革新的にすばらしいことだったとおもっていますので、また後日触れられたらいいなと思います)

 

しかし、現状では

多分開腹手術を受けておけばおおむね間違いない

腹腔鏡手術を受けるなら、病院とか医師をよくよく調べて受けるべき

 

というところだろうと思います。

もちろん開腹手術でも、病院によっていろいろ差はありますので色々調べて受けるべきです。

 

ご意見、ご質問をお待ちしております。