一口に手術といっても、内容によって危険度・術後は違います。
膵臓癌です。外科医に手術をしましょう、と言われた。
このブログの目的は、患者さんにできるだけ能動的に治療を選択してほしい、ということなんですが、手術のことを知らないと、考えようにも考えられないですよね。
もちろん各患者さんには、担当医から細かい説明があるはずなのですが、
なかなか面と向かっては言いにくい”本音”というのがあるので、そこのところをお伝えできれば、このブログの意義があるのではないかと思います。
(その分私個人の偏見が入る可能性はあります。ご了承ください)
膵臓癌の手術って、おおきくわけると
2種類あります。
膵頭十二指腸切除術(PD)
と
膵体尾部切除術(DP)
です。
どっちも膵臓を切ることに変わりはありませんが
手術のリスク・手術後の生活の質
は、やる側からすると結構違う感じです。
(もちろん内容が全然違うからなのですが、その細かい内容を小難しく説明したサイトはたくさんあるので、そちらを読んでください)
手術のリスクについて
膵頭十二指腸切除術 > 膵体尾部切除術
と考えるのが一般的だと思います。
手術リスクを死亡率だけで考えるのは極めて問題があると思いますが、
わかりやすいので例をあげてみます。
日本全国集計での死亡率
(手術を受けたあと、何らかの理由で退院できずに死亡する可能性)
膵頭十二指腸切除術 2.11% (127/6027)
膵体尾部切除術 0.99% (18/1813)
(日本消化器外科学会データベース2009年度調査報告より)
これだけみても膵頭十二指腸切除術のほうが多少危険、というのがなんとなくわかるかもしれません。
個人的には、いろいろな理由で膵頭十二指腸切除術のほうが危険、という意見には賛成です。
また、患者さんにとっては、死亡リスクうんぬんよりも
術後の回復、術後の生活の質 がけっこう違う印象です。
膵体尾部切除術のほうが、回復が早く、生活の質の変化も少ないです。
平均入院期間、ということでみても最近の欧米の大規模試験では
膵頭十二指腸切除術 2週間くらい
膵体尾部切除術 5日くらい
日本でもざっくりいって
膵頭十二指腸切除術 2~3週間くらい
膵体尾部切除術 1週間~10日くらい
(欧米のほうが入院期間が短いからといって、あちらが優れているというわけではありません。保険制度の違いなどいろいろありますので、、、日本のほうが、総じて死亡率など低く、成績もよい印象 ひいき目かもですが)
理由は簡単にいえば、
膵体尾部切除術では膵臓しか切らない(脾臓もとるんですが、生活にはほとんど関係ありません)
のに対して、
膵頭十二指腸切除術では消化管も切る(十二指腸、胆管などを切ったりつないだりします)
このため膵頭十二指腸切除術のあとの患者さんは、ごはんが一時的になかなか食べられなくなることが多いです。
(特にトラブルがなくても、食事量は減ることがおおいです。元通り食べられる人もいないわけではないですが)
膵体尾部切除術の患者さんも、一時的に食べられなくなることはありますが、2-3か月もすると、特にトラブルなどなければ元通り食べられる人が多いです。
この食事の違いが、結構入院期間に効いているように思います。(もちろんそれ以外にもいっぱい原因はあります)
どちらの手術においても、特に食事制限などが厳しいわけではない(基本的に食べてはいけないものができるわけではない)ので、
術後の食事の違いについての説明は、あまり重要視されていない印象ですが、
(そもそもPDとDP,どっちの手術にしますか、なんて提案することはまずない)
受ける患者さんからすれば、術後の食事は生活の質にかかわる大問題だと思いますので、手術を受ける、受けないの判断をする際にPDかDPかを聞いて、考える一つの判断事由になるのではと思います。
(死亡率が1%だ、2%だ、といわれてもピンとこないと思いますが、ごはんが普通に食べれる、少し食べづらくなる可能性がある、といわれると何となく違いがわかりませんか?)
個人的には、膵体尾部切除術なら、たとえご高齢の患者さんであっても、結構積極的にすすめたいと思っています。
一方で、膵頭十二指腸切除術の場合は、特にご高齢の患者さんの場合は、その適応は慎重にすべきだと思っていて、それは前述の死亡率のことよりも、術後の生活の質が保てるか、という観点が重要だと思っています。
というわけで、今回のまとめですが
膵臓の手術には二種類ある (膵頭十二指腸切除 膵体尾部切除)
膵頭十二指腸切除のほうが若干危険といわれている
膵頭十二指腸切除術をうけると、術後食事で苦労することがあるが、膵体尾部切除術では普通に食べれる人も多い
あえてアバウトな説明にしていますし、データにもとづかない部分も多く、ご批判もあるかと思いますが、
ご意見、ご質問などお待ちしております。